コレクション: 仁城逸景

木目の柔らかな表情が食卓に落ち着きをもたらす《仁城逸景》(岡山県・井原市)


 漆業界の重鎮であり2020年に引退を発表した仁城義勝さん。義勝さんは木の加工を担う木地師をなりわいとしていたものの、分業制である漆器業の一端として働くのではなく責任をもってうつわを完成させたいとの想いから、丸太を購入するところから販売までを一手に担う作風をスタートさせた。そしていま、長男である仁城逸景さんもまた、同様のスタンスでうつわをつくっている。

 「あえて言葉にすると、父は父で作家としての活動を続けてきて、僕は僕で好きにやっていたら20年も経っていたという感じです。俗にいう世襲という感覚は自分たちには一切ないんですよね」と逸景さん。木肌を塗りつぶす一般的な「漆塗り」ではなく、木地に精製漆を塗り重ねることで木目を浮かび上がらせる「木地溜め」の手法は義勝さん譲り。樹種も漆も手法も同じとあってか、一見すると似通って見えるが、本質的な部分においては明らかに異なるという。

 逸景さんのうつわは、トチノキを切り出す木地づくりからすべて一人で手掛けているため、制作の限界は年間で約2000個。
「ありがたいことに同じものが顧客に求められているからこそ、あえて色を変えたり品目を増やす必要もないんです」と、20〜25種の定番品の完成を待ちわびる人々のために、毎年つくり続ける逸景さん。家族を養うためのなりわいだからこそ、作家性がどうこうではなく需要があり続けることのほうが大切だというが、父から受け継いだ”購入した丸太は余すところなく使いきる”といった仁城家の流儀は心に留めている。
text: Natsu Arai photo: Yuko Okoso
(Discover Japan 2024年12月号より抜粋、一部加筆)